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武満 徹「ソングブック・コンサート」 [音楽]

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 武満 徹の曲を歌う「ソングブック・コンサート」と題した公演を三鷹市芸術文化センターで聴く。出演は、6人の歌い手とショーロクラブ(ギター・バンドリン・コントラバス)。ステージ向かって右手にショーロクラブの3人が並び、左手にイスが用意され6人の歌い手が座り、交互に中央に立って歌うスタイル。照明を落とした舞台の背面に7つの電球が灯る。
 1曲目はショーロクラブによるインストゥルメンタル「翼」。少し南国の雰囲気を漂わせるゆったりとした、夏に合う曲調。3人のアンサンブルはこなれており、完成度が高い。編曲は秋岡 欧。2曲目の「めぐり逢い」を聴いて、この公演に来てよかったと冒頭から思う。歌ったのはアン・サリー。ほんのりとした哀切、豊かで心地よい開放感のある曲。この心地よさを言葉で表すとすれば、それは「夢」だろうか。アン・サリーの歌を初めて生で聴いた。決して厚みのある声ではないが、ホールの響きとあいまってこころにすうっと入ってくる。CDで聴くよりもライブで生きる歌声だ。3曲目は沢 知恵による「うたうだけ」。詞は谷川俊太郎だ。曲がもつリズムのはね具合のせいかもしれないが、彼女は昭和の時代がもっていた愉しさ、イマジネーションと響きをうまく表現していた。4曲目はおおたか清流(しずる)による「明日ハ晴レカナ、曇リカナ」。詞は武満 徹。夕空が広がるような歌声は魅力があった。
 このコンサートでいちばん聴きたかったのは、アン・サリーの「死んだ男の残したものは」(作詞:谷川俊太郎)だった。期待どおりの内容で、アレンジもよく、この歌に込められた乾いたさみしさが伝わってきて、いまの時代にこのような歌を聴けるとは思わなかった。彼女の声にはどこか母性的な芯がある。最後の3曲、おおたか清流「三月のうた」、沢 知恵「燃える秋」、松田美緒「翼」のいずれも聴きごたえがあり、曲のよさを十分に引き出していた。
 武満 徹の歌は、戦前から続くポップスや歌謡曲の文脈とつながっているように見えるが、実は何もない時代の日本、それは例えば戦後の風景のような、荒涼たる世界に彼独自の創造性によってつくられたもののように思える。時代に左右されず、風化しない情景や感性をしっかりと含んでいる、そんなイマジネーションに支えられた音楽なのだ。個人のイマジネーションほど強いものはない。いまの私にとっては憧憬とさえいってもいいだろう。昭和を生きた人なので、当然その空気がメロディーやハーモニーに色濃く反映されている。武満徹の歌の底に流れるテーマは希望だろうか。
 歌い手の女性は皆、それぞれ独自の雰囲気と声質を持っており、最近のテレビやラジオなどに出てくる底の浅い歌手にはない歌声が印象に残った。特にアン・サリーは、作曲者と作詞者のこころを美しい声と安定した音程にのせて聴衆に届ける。夏の暑さを和らげる、清涼で夢見るような歌の会だった。

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