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磐梯山(1) [制作]

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 8月の下旬に磐梯山を描きに出かけた。新幹線で郡山に行き、磐越西線に乗り換え、猪苗代駅で降りた。行楽シーズンを外して行ったとはいえ、猪苗代駅前は意外にも閑散としていた。歩く人の姿はまばらで、食堂と喫茶店以外に開いている店は数えるほどしかない。数台のタクシーが止まっているだけのロータリーを過ぎ、磐梯山を探す。すると、山の上部が駅前の建物越しにすぐに現れた。さらに西側の道を2分ほど北に歩くと、全容が見える場所に出る。

 久しぶりに見る磐梯山は、夏の強い陽射しと湿気に覆われ、青白くかすんでいた。ずっと記憶に残っていたのは北側の裏磐梯から臨んだ、岩肌が露出した凹型の姿だ。南から臨む山は、頂が二つに分かれてはいるものの、三角形の構造は保たれている。斜面は緑におおわれていたが、猪苗代スキー場が黄緑の帯のようにいくつも刻まれ、高揚した気分に水を差した。県を代表する名山にスキー場を造るとはなんだか貧しく、腹立たしい思いが湧いてくる。

 山は住宅や低層のマンション越しにそびえる。ひとしきり眺めたのち、イーゼルを立てた。用意してきたのは水彩。この山をどう捉えようか、実は確たる構想もないままやって来た。稜線は長く、F8の水彩紙には入りきらないスケールがある。それは予想していたが、水を含んだ夏の空気には考えが及ばなかった。その空間を通して見る山は、色も輪郭もあいまいに見えた。

 とはいえ、この大きな空間を捉えることこそが重要であり、風景画は一度や二度来たくらいで描けるわけではない。今回は様子見になることも覚悟していた。陽射しが強く、それを避けるため、道路沿いのアパートの階段の下から山に対峙した。手探りで色を置くが、タッチも色彩もつかめないまま、とりあえずの3枚を描く。まだ感覚がなにも受容していない。この山は自分にとって何なのか。

 陽が傾いてきたので、制作を終了して駅に戻り、迎車で猪苗代湖畔に建つホテルに向かった。道行きで運転手に聞くと、磐梯山がくっきり見えるのはやはり秋だという。考えるまでもなく当たり前のことだが、それも分からなくなるほど、自然から隔たった場所に住んでいる自分に気がつく。

 ホテルに着いて荷物を下ろし、休みもせず絵の道具を持ってにすぐに猪苗代湖の湖畔を歩く。日が沈みきらぬうちにモチーフを探す。三十数年ぶりに近くで見る猪苗代湖は静かでおだやかな表情をたたえ、ゆっくりとした波をよせて変わらずにそこにあった。向こう岸が遠くかすかに見える。砂は深く、浜と呼んでいいだろう。遊泳区域で泳いでいる若者が2人、キャンプをしているグループが2つ。あの白鳥型の遊覧船はここにはなく、だいぶ昔に長浜という場所へ移ってしまったという。湖を正面にして右手に磐梯山の偉容が見えた。すでにシルエットでしかない。山と巨大な湖。この風景が太古の昔からあったような気にさせる構図だ。夕暮れの湖の景色に見とれる。湖に流れ込む小川の水は美しく、夏だというのに冷たかった。その川を越えて浜の北端にイーゼルを立て、武蔵野の崖線を描く色彩とタッチで湖畔の木立を描いてみた。20分ほどで陽が沈んで色彩が消え、制作は途中で終わる。

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