落語家と餅 [落語]
NHKの若い人向け落語番組の最後のほうで、若手の落語家が「明烏(あけがらす)」を演じていた。いまどきのアニメのキャラクターのような顔で髪にパーマをかけ、どこからどう見ても落語家に見えない。容姿はともかく、その芸がどうにも消化不良だ。15歳のころ入門したとのことだったが、まったく言葉が滑っている。しっかり腹に収めてから伝えるべきところ、喉を落語家的に鳴らしているにすぎず。
私はそれほど落語に明るくはないが、好きでときどきホールに通い、テレビやラジオなどでも時間があれば聴く。思えば落語の噺、具体的にいうと言葉の一つひとつは餅のようなものだ。ほどよく焼いて焦げ目をつけ、さあどうぞ、という具合に客に届ける。焦げ目がつけば、安倍川だろうが、のりだろうが、豆だろうが自在で、それがその噺家ならではの一芸につながる。もちろん言葉は滑らず、客はおいしくいただくことができる。ところが若手の落語家は、餅がまだ生焼けのうちから客の皿に載せてしまい、それに気づいていない。真打ちでも生焼けの落語家はけっこう多く、残念なことだ。
その番組には春風亭一之輔師匠も常連で出ているが、若手育成の意味もあってゲスト出演しているのだろう。番組前半でその回で取り上げる演目や落語のうんちくを司会と一之輔師匠を含めた4人の落語家で解説し、締めで一席口演する。解説や落語家の考え方や作法などについての話はためになることも多い。しかし、いかんせん若手落語家の話が軽薄だ。そのうえ、締めのあの程度の落語で、しかも短縮版で面白さを伝えるのには無理がある(もちろん一之輔師匠が高座に上がる場合は別だが)。番組中で見本として流れる昭和の大看板たちの映像の噺、その面白さ、芸のすごさこそじっくり語りあうべきだと思う。そういえば、「平成の大看板」はいるのだろうか。だれか教えてほしい。
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