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イアン・トマス・アッシュ監督の「A2」 [映画]

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 東京経済大学にてシネマ・タイフーンと題した上映会が開かれ、イアン・トマス・アッシュ監督の「A2」を観た。福島県伊達市で撮られたドキュメンタリー映画(2013年公開)。A2は甲状腺の検査において「5mm以下の結節(しこり)や20mm以下ののう胞を認めたもの」とした判定レベルの名称だ。本作が焦点をあてたのは主に小さな子どもをもつお母さん。カメラは放射能汚染に住み、その被害に翻弄される彼女たちの苦悩と独白、行動、子供たちの日常を色づけなく捉えた。また学校の対応や除染に関しても取材を行っている。驚くのは、画面に登場する子供たちの甲状腺のほとんどにのう胞(A2)があった点。そして、とある学校の敷地の横でお母さんが測ったガイガーカウンターが35μSv/hを計測したこと。そこはすでに戦場だ。無邪気に遊ぶ子どもたちの姿と、その口から出る「放射能」の言葉に、胸が締め付けられるような気分を味わった。
 今回の上映会ではほかに「フタバから遠く離れて」(舩橋淳監督)「無人地帯 No Man's Zone」(藤原敏史監督)の2本が上映された。いずれも、A2同様福島で撮られた原発事故にまつわるドキュメンタリー映画だ。上映後にディスカッションが行われた。3人がそれぞれの映画制作時の状況などを2時間ほど語った。反原発が目的の上映会ではなかったが、最後の質疑で山下俊一と同様の発言をする女性が現れ、「神戸を始め全国各地での子どもの甲状腺検査では60数パーセントの割合でのう胞が確認された」と指摘。つまり、この映画のタイトルである福島の子どもにおけるA2は特殊なケースではなく、過大に表現することになるのではないかとの懸念を監督に突きつけた。これは本作のテーマの全否定につながる意見だった。監督を含め、その場にいただれも答えを用意していない問い。会の終了後監督に聞いたところ、映画に登場する子どものほとんどがA2であったことは偶然だという。放射性ヨウ素が南下したいわき市のことを話すと、いわき市もきちんと検査を行ったほうがいいと語った。
 確か以前の報道では、福島県内の子どもののう胞検査の統計が、30数パーセントから40数パーセントに上がったと伝えられたはずだ。放射能の影響に関しては情報が交錯しているうえ県が検査結果を隠蔽しており、いまだ確実なことが言える状況にない。ミクロの世界の暴力。この点が放射能汚染の難しいところだ。影響は明日出るのか、3年後か、数人に出るのか数十万人か。放射性ヨウ素が南下したいわき市ではどうなのか。ただし、生命を守るためのシグナルを摘み取る権利はだれにもない。原子力を推進する側の手口は、まず隠蔽、そして被害者が発するシグナルを統計的なデータでくるんで希薄化させ、無効にしてしまう。奇しくもA2の冒頭には、事故直後に福島県内で「年間100mSv以下なら放射能は大丈夫」を吹聴してまわった山下が登場する。
 表現者は今回のような類の批判に対する言葉を用意しておく必要がある。人々の危機感を否定する意見は必ずつきまとう。前述したように福島はすでに戦場だ。お母さんや子どもたちは3.11以降そこでずっと戦っている。いや、戦わされている。ドキュメンタリー映画はもはや戦場取材と変わりがない。それを上映するときでさえ、つねに原子力を擁護する側から発せられる批判と戦う必要があるのだ。福島の惨状や放射能汚染を表現する場であっても、そのことを忘れてはいけない。

「A2」予告編
http://www.a2documentary.com/

※その後映画のタイトルは「A2-B-C」になったもよう(2014年3月19日追記)
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