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原子炉とパソコン [原発]

 ノンフィクションライターの広瀬隆さんがインターネットの番組で語った話を聞いて、私はこのところ感じていた視界の曇りが局所的に晴れた気がした。そして同時に愕然とした。当たり前のこと、単純なことというのは、意外に思いが及ばないものだ。この晴れ間を見たとき、私は絶望的な気分に襲われた。

 原発事故が発生して以来ずっと、私の意識の表面には、なにかぬぐいきれない割り切れなさで覆われていた。状況の見えなさといえばいいだろうか。それがなんなのか、広瀬氏の指摘によって少し理解できた。それを急いで書きとめてみよう。

 いまの原発に関する危機的な状況を例えるならば、こういうことだ。
私たちが現在日常的に使っているパソコンを考えてみる。この道具は、便利でさまざまな機能やサービスをわれわれに提供してくれているのは周知のとおり。いまでは日々欠かせない道具になった。しかしその道具も、いったん調子が悪くなると、ユーザーの手に負えない代物に変わる。対処のしようがない状態に苛立つ。これは皆が経験していることではないだろうか。

 パソコンというものは、多数の集積回路が集まった複雑な装置であり、いうなればブラックボックスだ。見た目はデザインをほどこしたスマートな筐体で覆われているが、ネジを外して見たその内部は、素人にはとうてい理解のできない構造になっている。ロジックボードと呼ばれるメインの基盤はその最たるものだ。

 このパソコンの中心部であるCPUに欠陥があったとしたらどうだろう。使い手であるユーザーはもちろん、パソコンメーカーのNECやソニー、東芝でさえも直すことはできない。CPUは膨大な回路の集積であり、それに対処できるのは、CPUメーカーのインテル(またはAMD)のみだ。

 あるいは、WindowsやMac OSなどのOSに欠陥があったらどうか。これもまた、ユーザー、パソコンメーカーともに直すことはできない。OSもハードウェア同様、非常に複雑で膨大なプログラミングコードの集積であるからだ。これを直せるのは、Windowsならマイクロソフト、Mac OSならアップル社だけである。

 ひるがえって、原子炉を考えてみる。私が40年近く前、福島の原子力発電所PRセンターで見た原子炉の模型は、最近テレビや新聞で盛んにパネル説明している原子炉の模式図とは比べものにならないほど複雑なものだった。それは、たくさんの配管や装置などで覆われたカプセルだったことを思い出す。まさしく、パソコン並みの複雑さと言っていいだろう。原子炉の配管や装置と、パソコンの回路や配線は意味合いとしてはイコールだ。世界は複雑化に突き進んでいる。

 そして、福島原発でいま危機的な状況にある4基の原子炉。この破損したプラントで問題になっているのは、冷却機構を始めとする、まさにその複雑な構造だ。広瀬氏は、この入り組んだ装置の破損への対処を考えられるのは、東京電力ではなく、原子炉を造ったメーカーである東芝や日立、三菱などの技術者だという指摘する。先の例で挙げれば、パソコンメーカーではなく、もはやインテルやマイクロソフトの出番なのだ。東京電力は原子炉を動かすことができるだけのオペレーターにすぎない。まして安全・保安院は何の役にも立たない存在であり(広瀬氏は「馬鹿ども」と切り捨てた)、東電の受け売りをしゃべる政治家もしょせん素人だ。もちろん、原子炉メーカーがすべての解決策を持ち合わせているとは思わない。しかし、あの原子炉の構造をだれよりも知っているのは彼らだ。

 この事実を思うとき、いまメディアに登場している原子力の学者や研究者は、机上の空論論者であることが明らかになる。彼らはみな概念や単純な図面で考えているが、実際の構造物はもっと複雑な代物なのだ。事態を食い止める知恵を出せるのは、原子炉メーカーの技術者にほかならず、私もこの点に異論はない(ただし、建設当時の技術者は皆高齢になっているとのこと)。とにかくいまは、東芝でも、1号機のメーカーでもあるGEでもかまわない、これらの原子炉の設計に携わった技術者個人の協力を至急あおぐべきだと思う。あるいは、世界各国に助けを求める時期にすら来ている。これまでの経過を見る限り、東電という一企業だけではまったく心許ない。それどころか、東電や旧通産省、安全・保安院、政府系原子力機関、御用学者による現在の利権態勢こそが前述した絶望の源であり、彼らに任せていてはさらに悪い方向に進む可能性すらある。事態は一刻を争い、多くの人命の未来がかかっている。

福島原発事故 メディア報道のあり方 広瀬 隆:
http://www.youtube.com/watch?v=MiYz6dxfw7E
 
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