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カマキリ

カマキリ

夜の地下駐輪場。
その床にうずくまる一匹のカマキリ。
自転車にひかれ、横腹から内臓が出ている。
目の覚めるような美しい薄緑色の身体。
背中をつかむと、強い力を出して指にカマを立てた。
つかむのをやめると、すうっと私の腕に乗った。
そのまま自転車を押して、地上に出る。

きれいな緑のある場所で生まれたのだろう。
腕の上をゆっくり動く淡いエメラルドグリーンのカマキリ。
私は子どものころから、すぐにカマキリを見つけることができた。
草むらだろうが、生け垣だろうが、私の目はその姿を一瞬でとらえる。
いまの人間の目には、昆虫の姿が映らない。
虫を見ることすらできなくなった目。

ひん死の彼女は、まくったシャツのそでに上った。
腕をビルの植え込みに近づけると、ゆっくりと葉の上に降りた。

ライトに照らされた目はすでに黒ずんできている。
もう助かるまい。
「馬鹿者、なんであんなところに」
「かわいそうに」
「ごめん、ごめん」
カマキリは黒くなった目で私の顔をじっと見た。
私にもお前が見える。
別れを告げた球形の目。

自転車をこぐ、いつもの路。
もしかしたら、強い生命力で助かるかもしれない。
しかし助かっても、あんな駅ビルの植え込みでは生き延びられない。
戻って連れてこよう。
そして、あの住宅の庭に置いてやろうか。

いや、死に場所に置いてやっただけで十分だ。
そう、自分に言い聞かせた。
言い聞かせながら自転車をこいだ。
タグ:カマキリ
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