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沼尻竜典バルトークを振る [音楽]

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沼尻竜典&トウキョウ・モーツァルト・プレーヤーズ 第60回定期演奏会
2012年6月24日三鷹市芸術文化センター・風のホール


 ベラ・バルトークは私の好きな作曲家のうちの一人だ。独特の緊張感と民族音楽の精神をもった音楽は独創的で美しい。三鷹市芸術文化センターで定期公演を行っている沼尻竜典とトウキョウ・モーツァルト・プレーヤーズ(TMP)が、そのバルトークを演奏するという。メインとなる演目はいわゆる「弦チェレ」(弦楽器、打楽器とチェレスタのための音楽)。好きな曲だけに、期待して聴きに行った。
 演奏前のMCで沼尻さんは、普段あまり選ばれないこのような曲の演奏会に来てくれる皆さんが本当のTMPのファンです、というようなことを冗談まじりで言った。聴衆は笑ったが、そのとおりなのだろう。モーツアルトやベートーベンで客は集められるが、バルトークを聴きに来る客はある意味で通だ。鑑賞の幅が広い。私の勝手な感想だが。
 また、話の途中で沼尻さんは、ハンガリーで4年間勉強したというチェリストを舞台に呼び、ハンガリー語のアクセントなどについて紹介させた。バルトークはハンガリー出身。実はこれと同じ場面は、以前NHKで放映した小澤征爾の特集番組でも見た。小澤さんもそのときオーケストラ(米国マサチューセッツ州タングルウッド音楽祭のマスタークラス)の若い学生演奏家たちにバルトークの音楽を理解してもらおうと、ハンガリーから来た学生演奏家にハンガリー語のアクセントを紹介させている。つまり、バルトークに限らず、特定の国や地域の音楽には言語表現の影響が表れるということだ。特にアクセント。言葉のアクセントが前にあるのか、後ろにあるのかが音楽のフレーズのアクセントにも色濃く出るらしい。ちなみに、ハンガリー語はアクセントが前にある。その重心がバルトークの音楽のひとつの味になっているのは間違いない。
 演目1曲目は「弦楽のためのディベルティメント」。第一楽章アレグロ・ノン・トロッポこそ、バルトーク音楽のエッセンスが凝縮した曲。緊張と緩和による美しさ、ハンガリーのアクセントとリズム、モダンなフレーズ。さらに具体的にいえば、弦のふくらみが絶妙だ。TMPの演奏と音響もよかった。第三楽章アレグロ・アッサイは躍動感と力強い言葉、ゆるぎないピチカートが響き、民族的な律動感が出色の作品。
 間にモーツァルトの「音楽の冗談」をはさみ、後半は「弦チェレ」。戦争が忍び寄る不気味な足音のような第一楽章、ピアノと打楽器による強いエネルギーを放出する第二楽章、不安と狂気の始まりを予感させるような第三楽章、そして生き生きとした第四楽章は民族の祭典か。バルトークの「なまり」と独創性をうまく表現したいい演奏だった。なかでも私が特に好きなのは、チェレスタで始まる展開。それはなにか、夢の世界に入り込む合図のようなのだ(似たような展開は「舞踏組曲」でも聴くことができる)。このチェレスタの「予兆」がことのほか美しい。
 聴衆の拍手を聞く限り、みな大いに満足したようだ。このホールでは弦と打楽器の音量バランスを取るのが難しいと思われるが、バルトーク好きも納得できる出来だったと思う。本当は全曲バルトークでまとめてほしかったところだが、ぜいたくは言うまい。沼尻さんは、自分の思うままに演目を決めていけばいい。そうして、聴衆を育ててほしい。名曲はまだまだたくさんある。
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