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美術展の図録 [ART]

 昨日の話の続きになるが、美術展の会場で売られる図録(カタログ)や書店で販売されている画集には問題がある。それは容易に解決しない欠点であり、私は技術的な改善が図られることを以前から願っている。絵画作品はもちろん実物を見ることが大切だが、海外の貴重な作品を見る機会はそう多くはなく、図録や画集がたよりになる。私は、記録・資料として割り切ってそれらを購入している(入場料と図録を合わせると、たいていは5,000円を超えてしまうのは痛いが)。

 美術展でたんねんに作品を見た後、出口付近のショップで売られている図録を見て、いつも声に出さずに叫ぶ。「こんな色じゃない!」。実物と図録の色味があまりに違いすぎるのだ。もし、昔の画家が自分の作品が印刷された図録を見たら卒倒するだろう。絵画は色彩がなにより重要であり、それが損なわれたとき、構図はおろか作品自体が破綻する。以前開かれたマチス展で、作品と図録の色味の違いにマチスの遺族が抗議し、印刷所が1ページを刷り直して差し込みにしたことがあった。もっともな話だ。マチスの遺族は印刷に対し常に厳しい目を向けているという。

 現代の印刷物はCMYKの4版でプリントされている。Cは青、Mは赤、Yは黄色、Kは黒だ。これらを細かなドット(網点)でかけ合わせてさまざまな色を再現する。現実の色彩や絵画作品の色は極度に複雑だ。本来はそれをCMYKの4色と網点の大きさで表現することに限界がある。また、撮影時のライティングやカメラの設定次第でも正確さは失われるだろう。そして、印刷時に色相や彩度、明るさ、コントラストのいずれかを優先すると、どこかが崩れてしまう。まして、1枚ならともかく、複数の絵画を掲載する図録では作品別に色調を調整するのが難しいことはわかる。それでも、いまの図録の色はあまりに違い過ぎだ。調整の幅はまだ十分にあり、近づける努力が足りない。展覧会の主催者は、図録の色校をていねいに見て、印刷所に指示を出すべきだろう。現状は印刷所の初校のまま、スルーで出版しているように思えてならない。

 相対的にみて、書店で販売されている画集のほうが色味の乖離は激しい。出版社の編集者は無神経だ。刊行することが目的であり、色味の正確さはほとんど無視している。掲載のために取り寄せたフィルムなり画像の色味がすでに崩れている可能性も高いだろう。近年、プリンターメーカーや大手印刷所による絵画作品のデジタルライブラリー化が進み、高い精度でのデジタル化を行っている。望みはそのへんにありそうだ。その成果と技術を応用して、より実物に近い色味の画集を作れないものだろうか。多少高くても売れるはずだ。
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