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VOLKSWAGEN GOLF [クルマ]

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 1980年ごろだろうか、高校時代、自宅近くのDIYセンターでアルバイトをしたことがある。「アンゼン」という名のその店は当時、地域で最大の売り場面積をもち、大工道具から日用品、カー用品、植木まで、さまざまな商品を扱っていた。
 私は毎週土曜の夕方と日曜にこの店に入り、当初はエクステリアのコーナーで社員の手伝いをした。もとより、技術や知識がないので、言われるままに物を運んだり、客対応などをしていた。上司にあたる男性社員と気が合い、仕事の初手を教わった。もはやその人の名前は忘れてしまったが、高校生にとってはだいぶ年上に見えた。とはいえ、たぶん30歳前後だったのではないだろうか。ちょっとヒゲ剃りあとの濃い、いかにも独身といった風体の人だった。いま思えば、彼の趣味はクルマだったのだろうと思う。よく自分が乗っているクルマの話をしていた。外車なのだという。日本車とは違う点やよさを聞かされた。いつか、そのクルマに乗せてやるという。
 早晩その日がきて、昼休みに店の前の広い駐車場で待っていると、なんだか四角いフォルムのクルマが現れた。彼はクルマから降りて、愛車を紹介した。ボディーカラーは忘れてしまったが、たしかブルーだったか。そのクルマこそ、初代ゴルフだった。そのときの私が、フォルクスワーゲンのこのヒット作をすでに知っていたかどうかは定かではない。横置きエンジンなどに関する講釈をしばらく聞いたあと、助手席に乗り込むと、クルマはゆっくりと動き出した。
 内装はちょっと武骨でシンプルな設計。日本車とは異なるパネル周りのレイアウトが、ドイツ的な気質を漂わせていた。チェック柄のシートは若干硬めだったが、これも初めて体験するフィット感があった。
 DIYセンターは鹿島街道という南北に伸びる幹線道路沿いにあり、多くの客はクルマで来店した。当時の先駆的大衆車は外車初体験の高校生を乗せて街道に入り、青空の下、速度を上げた。窓越しの風景もこころなしか違って見える。少し走ったのち、
「日本車との最大の違いは高速安定性にある」
と彼は言い、それを証明するようにアクセルを踏み込んだ。ゴルフはほぼ一直線の道で加速した。90kmは出ていたろうか、確かに、加速と同時に車体がグッと沈み、アスファルトをグリップする。わずかな感触だが、父親が運転する日本車(セドリック)にはない安定性を体験した瞬間だった。信頼性と言い換えてもいいかもしれないそれは、アウトバーンを走行するドイツのクルマに欠かせない性能だったのだろう。私はその性能に魅せられ、彼の言葉を丸呑みにして共感した。さらに彼が「国産車はどうがんばってもこの高速安定性を実現できない。足回りのよさはいくら研究しても真似できないよ」というようなことを話したのを覚えている。
 30分ほどのドライブは爽快だった。私が初めて乗った外車、ゴルフⅠ型。特徴的な丸いヘッドランプと無駄のない直線的でコンパクトなボディーデザインもすっかり気に入ってしまった。そのとき、将来自分がクルマを買うとしたら、必ずゴルフにしようと決めたのだった。
 私にゴルフのよさを教えてくれたその人は、それから少ししてDIYセンターを辞めてしまった。名前はおろか、顔もぼんやりとしか思い出せないが、あのドライブの記憶だけは今も体に残る。以来、ずっとゴルフが気になっている。新型が出るたびに雑誌などを買って眺めた。しかしあれから30年以上経ち、残念ながらいまだ自家用車を持つ身分には至っていない。
 一方、ゴルフのほうは進化に進化を重ね、現在では大衆車というよりも、高級車の範疇に入るようなクルマになってしまったように思う。ボディーもひと回り大きくなった。品質と性能の追求の結果なのだから、やむを得ないのかもしれない。CarGraphic TVなどを観ると、安定性や信頼性、剛性の高さは健在らしく(ただし、II型までは故障が多かったのも事実)、私などが運転したらすっかり満足してしまうだろう。だが、もはや自分には似合わないクルマに思え、サイズや価格の面でみても、ゴルフよりポロか? という迷いすら生じる。買うあてはないので、ただの空想にすぎないが。
 もしいまクルマを持つ機会に恵まれたなら、はたして最新のゴルフを選ぶだろうか。自分が変わったのか、ゴルフが変わったのか、あのときの決心がちょっと揺らいでいる。

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