マリー・ローランサン展 [美術]
マリー・ローランサン展を見る。まとまった数のこの作家の作品を見たのは初めてだ。出品はほとんどがマリー・ローランサン美術館所蔵のもの。
展示は20代のころの作品から始まるが、彼女独自の作風が現れるのは30代に入ってから。そして、40代、50代、60代と年を重ねるにつれ、円熟味を増している。この場合の円熟味とは、色彩のことだ。
いくつかの白を重ねた繊細な肌の表現とそこに含まれる桃色、半調子を表すグレー、服や帽子に現れるエメラルドグリーンとビリジアン。60歳近くなると、そこに黄色が加わる。これらの色の調和がいい。
肖像画にピカソに通じるような構造が見えた。十分なボリュームがありバランスがとれ、構造を保つ線が効いている。もっとも、この肖像画がもつ恒久的な安定感はフランス人特有のものかとも思う。それが結晶したのが、本展で展示されている「Musique」(音楽/1944年制作)だ。首飾りを付け、布をまとった半裸の女性と背景のギター。女性のバックには黄色の布のようなものが流れるように描かれている。このイエローオーカーを混ぜた黄色が美しい。一方でこの絵には青が使われている。女性の大きな瞳の中に。
パリで成功した画家というイメージが強い。ロビーで見ることができる講演会のビデオでマリー・ローランサン美術館キュレーターの吉澤公寿氏が語っているが、この女流画家も世界大戦に翻弄された人間のうちの一人だという。大戦終了後には、ドイツ人と懇意にしたことによりフランス政府に数日間拘束されている。
マリー・ローランサンが色彩の画家であることを再認識した展示だった。安定した作風の画家であるため、またイラストレーション的な色合いや題材により、これまで軽んじられてきた面は否定できない。しかし、歴史的な文脈における人物画と、色彩画家としての仕事をあらためて見直すべきだと思う。特に日本人はその才能に早くから着目していたのだから。
三鷹市美術ギャラリーにて6月22日まで。
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