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熊谷守一の絵 [芸術]

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「白猫」

 熊谷守一の油彩画にときどき出会う。美術館の常設展示や老舗の画廊、あるいは画集の中で。出会うというよりは、突然現れるといったほうがいいだろうか。今日、古書店で購入した現代美術の展覧会のカタログには「石亀」というタイトルの作品がぽつんと掲載されていた。この人の油彩画の特徴は、渋みがありながら柔らかい色調と、単純化した色面だ。ここではその色面について書いてみたい。
 少々乱暴な言い方をすれば、絵における描画の要素は通常、面と線に分けられる。線を描いて面を重ねる、あるいは面で構成して線で整える、といった仕事の仕方があるだろう(これはあくまで筆の運びの話だが)。
 さて、この手法からすれば、熊谷守一の描画は特異である。モチーフを面(プラン)で描いてはいるが、それらの面はいずれも接合していない。そこには必ず「間」があるのだ。つまり、重なりがない。しかも単なる間ではなく、その間自体にも色(主に赤)が付けられており、それはもはや線とはいえない要素になっている。構造としては、赤い間の部分を線状に描き、その上に色面を厚塗りで載せている。
 面でも線でもないもの。それは隙間か、あるいは地か。これにより、この画家の絵には、画面全体に均質な造型が生まれる。思索と注意深い視線に基づく形が地のような線によって決められ、面が置かれ、対象を単純化し、記号的な独特の画面を構成する。
 熊谷守一の絵には、プロセスはいっさい描かれていない。どのように感じて描いたかというような過程をまったく排除している。そこにあるのは、彼が対象を見つめた末に発見した形であり、絵画世界だ。注意深く視ることによってつかんだ面と面の独自のバランスと、間による絵画。これは容易には到達できない仕事だと思う。

タグ:熊谷守一
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