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福島の女性 [原発]

 先日3月10日深夜に放映された「朝まで生テレビ」を観た。テーマは3.11の原発事故から1年経った現在における、除染・がれき・脱原発・エネルギー問題。細野豪志大臣と河野太郎議員の議論に実のあるものが多かったように思った。さてこの放送の中で、ひとしきり議論があった後、スタジオに来ていた福島からの観覧者の一人がマイクを向けられ、以下のようなことを言った。「これまでの議論を聞いていると、細野大臣や多摩大学の先生をふくめて皆さん、机の上だけで話をしている。机上の空論だ。自分の身内が福島にいたらこんな話にはならない。できれば福島に住んだうえで話をしてほしい。家族が住んでいるつもりで、もっと私たちの立場になって考えて」。

 60歳くらいの女性だったが、正直にいってこの意見にはうなずけず、なにか違和感を感じた。確かに、福島の市民は今回の原発事故における最大の被害者だ。突然降ってわいた放射能汚染に健康や生活を脅かされ、地域のつながりを断ちきられ、仮設住宅あるいは自宅で不安なつらい毎日を送っていることは理解できる。怒りをぶつけたいのは当然だろう。しかし私が気になったのはこの女性の考えている「家族がいるつもりで」という問いかけだ。政治家や学者、評論家に当事者意識を持てという。その要望は難しいのではないだろうか。

 相手の立場に立って考えるというのは、このような災害時においていかにも大事なことのように思えるが、人間の社会というのはそれほど人情に厚いところなのか。残念ながら、当事者意識を持てる人間など実際にはそう多くない。家族とともに被災地に住んでまで他人のことを心配してくれるような人物はいないだろう。まして、政治家には。さらに踏み込んでいえば、国家は市民の側に立つことはない。市民の身を案じ、常に安全を確保してくれるのが政府や官僚、学者だと思っているのなら、考えをあらためたほうがいい。市民は、彼らが道を誤らないように監視する立場にある。

 私が感じた違和感は、その無防備さにある。どこかのミュージシャンが歌っているいうように「だまされていた」というのでは話にならない。私は、原発において国や電力会社がいう「安全」神話を信じていたのなら、信じるほうが悪いと思う。原発1基で数百億〜数千億円の金が動くのだ。その金目当てにさまざまな画策するのが人間というもの。その人間たちが口にする「安全」は建前に決まっている。その言葉を信じていたのなら、今後もきっといろいろな局面でだまされ続けるだろう。

 女性の言葉からは「政府には、親身になって自分の安全を保証してくれる人間がいるはず」、そんな意識が感じられる。「自分たちはいわれのない被害を受けたのだ。この損害をどうしてくれる? 家屋と収入のぶんを早急に賠償しろ!」くらいの踏み込みが必要だ。相手は「年間10ミリシーベルト以下なら大丈夫。いや本当は100ミリでもそれほど影響はない……」などと無責任なことを言っているのだ。「そんな判断は我々がする。とにかく放射性物質をすべて東電と国が引き取れ」と返すのが筋だろう。

 受け身ではいつまでたっても中央政府に押しやられるだけだ。相手に自分の主張をのませるための戦いは避けて通れない。まして、事故によって発生した問題はいまもほとんど解決していないのだ。戦いは今後数十年は続く。首都圏にエネルギーや食料、部品を供給していればなんとかなる時代は終わった。自分たちがこれだけつらい思いをしているのだから、国や県はどうにかしてくれるだろうという考えは捨ててほしい。まずは、東電と国に損害賠償を集団訴訟で求めるのが筋だ。そのうえで、自らの安全は自分たちで確保しなければならない。国や県の動きには常に不審の目を向けていたい。

 福島の市民は疲弊もしているだろう。先の見えない中いまは静かにしてほしいという気持ちもわかる。しかし、このような世界的な事故が起き、それが収束していない中、なお国家に期待するのはやめたほうがいい。いまからでも遅くはない。福島県の人々は感情に訴えるだけではなく、理屈で戦略的に考える準備をし、自立するための言葉を得てほしい。また、他県などに味方を増やすことも重要だろう。とりもなおさず、それがいままでの福島県の市民に欠けていた資質であり、この戦時下のような状況で必要なことでもあるのだから。

4月4日追記:
【福島原発告訴団】3月16日、いわき市で「福島原発告訴団」の結成集会が開催された。
http://kokuso-fukusimagenpatu.blogspot.jp/
「福島原発事故により強制的に被曝させられたわたしたちは、生活と健康の不安におびえながら、このまま泣き寝入りするわけにはいきません。いまだに責任が問われていない東京電力の経営陣、原子力安全委員会の委員など、東京電力&国&官僚&御用学者の犯罪を追求し、法的責任を問うことが必要です。「原子力村」の犯罪を、告訴で刑事責任を糾すため、(仮称)福島原発告訴団を結成いたします。みなさまのご賛同と結成集会への参加を呼びかけます」
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