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アトムの足音が聞こえる [映画]

 渋谷のユーロスペースで「アトムの足音が聞こえる」の試写を観る。音響デザイナー・大野松雄の足跡を追い、現在そして未来に結びつけるドキュメント。監督・脚本は冨永昌敬。

 大野松雄のいちばん有名な仕事は鉄腕アトムのあの独特な足音だろう。音響デザイナーは、映像に音を付ける、いわゆる音響効果を仕事とする。歩く音やドアの音、風の音などさまざまな具体音のほか、音楽やこの世に存在しない音などを創る。彼は、日本のアニメ創世記において重要な音響の仕事をした人だ。NHK効果団を経て、フリーの音響クリエーターとして活躍。アニメではアトムのほか、「ルパン三世」の音響効果を担当した。また記録映画に携わり、レコードのリリースや博覧会パビリオンの空間音響システム・デザインなどの多彩な実績を持つ。

 そんな大野は'80年代に突然表舞台から姿を消した。本作は、大野のそれまでの足跡を紹介しながら、現在の本人の活動にたどりつく構成だ。前半部分では本人はまったく登場しない。作品と関係者(同僚や後輩)の回想のみで話が進む。観客は、日ごろはさほど意識せずにいた音響デザインの奥深い世界を知るにつれ、そこで活躍した大野がいまなにをしているのかが気になり始める。そして後半、キャメラは滋賀県の知的障害者施設で活動する大野を捉える。キャメラの前に現れた大野は80歳。彼はいまでも音響デザインの仕事を続けていた。ひょうひょうとした風貌に見えるが、プロとしての矜持が言葉のはしはしに垣間見える。昔の業績に話が及ぶと、いい加減にやったらたまたまうまくいっただけなどと言う。音を通じて知的障害者施設の人々に慕われる姿を目にしたとき、この作家の一徹さを感じた。

 大野を知る人は、彼が持っているひとつの枠に収まらない創造性の広さを評価する。確かに、決まったフィールドにじっと留まっている人ではない。フットワークが軽い江戸っ子の音響職人という印象だ(生まれは東京・神田)。その正体は、オープンリール式テープレコーダーによるフィードバック技法の使い手。自分の作り出す音はシンセではまねできないと語り、すでに存在する音には興味がないと言い放つ。私はその気質にしびれた。最近では、新進の音楽家レイ・ハラカミのリミックスに参加したり、「東京の夏」音楽祭(草月ホール)でライブ公演を開くなど、興味深い仕事を行っている。軽やかに見えながら、大野が持つ創造性の地力はすごい。それを捉えたこの映画、音響好きの私としてはかなり面白かった。

「アトムの足音が聞こえる」は5月中旬より渋谷・ユーロスペースほかで全国順次公開予定。
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