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セーヌの流れに沿って [美術]

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「ロカション・ド・ヴォワチュール」(佐伯祐三、1925年、ひろしま美術館蔵)

 ブリヂストン美術館で開催された企画展「セーヌの流れに沿って」を見る。同館は定期的に企画展を開いているが、今回は全9室のうち8つの展示室を使い出品数が多く、見ごたえがあった。
 副題「印象派と日本人画家たちの旅」のとおり、シスレーやモネ、ルノアールたちと1900年以降の日本人画家の作品が混在した展示となっていた。それらは、日本各地の美術館や画廊から集められた作品で構成される。
 この中で特に私が気に入った作品をいくつか挙げてみる。まずは、佐伯祐三の「ロカション・ド・ヴォワチュール」(1925年、ひろしま美術館蔵)と「テラスの広告」(1927年、ブリヂストン美術館蔵)。前者は、レンガのような赤茶色の壁と白いブロックで造られた建物を正面から描いたもの。マチエールは複雑で、非常に重みを感じる画面。建物は中央が通り抜けの通路になっており、深い奥行きがある。佐伯祐三の絵が並の画家の絵と異なるのは、筆が自立している点だ。荒く描きなぐっているようだが、どの筆も画面全体にとって欠かせない存在となっている。そして、そのタッチの強さが本質的な構造を表す。強いエネルギーをもった絵画だ。「テラスの広告」はモチーフは軽いが、自在な筆でありながら、やはりそれらはどれをとっても自立している。色彩は生きており、遊びや無駄はまったくない。
 次にモネの3点、「セーヌ河の朝」「睡蓮」「睡蓮の池」。色彩を受容するモネの感覚(視覚)は、天賦の資質だ。特に「セーヌ河の朝」(ひろしま美術館蔵)の感覚が作り出す幽玄世界は、さながらドビュッシーの音楽を彷彿させる。「睡蓮」「睡蓮の池」(いずれもブリヂストン美術館蔵)は、池の水面を見ながら、空の色彩を感じることができる。その効果が美しい。
 ピサロの「ブージヴァルのセーヌ河」(1904-10年頃、国立西洋美術館蔵)。空と大気、川面を表す色の織り方と明るさ。ここからセザンヌはなにかを学び取ったのだろう。ただし惜しいことに、ピサロの絵は構造がさほど強くない。
 アルベール・ルブールの「ラ・ブーユ附近のセーヌ河」は、いい仕事だ。慌てず、慎重に色彩を重ね、その風景の内に存在する構造をつかんでいる。これと同じくらいの成果を上げたのが、浅井忠だ。「グレーの洗濯場」(1901年、ブリヂストン美術館蔵)は、色調と構造がかみあっていた。
 たくさんの画家がセーヌ河周辺の風景をキャンバスに収めていたことをあらためて知る。素朴な試みによる、幸福な時代。ここに挙げた以外にも、魅力的な作品がいくつか展示された。じっくり見ると3時間は要するだろう。古典から学ぶことは多い。

<「セーヌの流れに沿って」展は12月23日終了>

 
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