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「庭」——岐部琢美/藤田俊哉展 [美術]

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 銀座のギャラリーセイコウドウにて、”岐部琢美/藤田俊哉展「庭」”を見る。岐部氏は彫刻、藤田氏はアクリルと油彩による平面作品。藤田氏は私の長年の友人だ。彼は同ギャラリーで定期的に展示を行っている。岐部氏は藤田氏の高校時代の恩師とのこと。
 ギャラリーの中央に置かれた岐部氏の立体作品「現況——The Present State」は広げられたロールのような形状。本作は金属と石を用い、表層的でありながら、空間と物質、内部と外部が通じるような構造を持つ。宇宙的な視点に立てば、金属と石はそのまま生物の組成に通じる。つまり、この立体作品とわれわれは物質的につながっている。岐部氏の作品は有機と無機の両面を備えているように見える。じっと作品を見据えると、そこにあるのは原初的な風景だ。長大な時間の断面を思わせる。
 藤田氏の作品は100号前後の大作が中心。本展では、岐部氏の作品を取り囲むようにして三方の壁に掛けられていた。その色彩は、赤と黒がベース。この2色を使ったスクエアな色面で二次元的に構成された画面。バーミリオンを含んだ艶のある赤と漆黒のような黒によるコントラストは見る者に強い印象を与える。赤は手前に出てくる色であり、黒は色彩を吸い込む。そして、そこに描かれているのは、さまざまな表情をもった各種の花だ。大胆に置かれた花が、装飾するように画面を彩る。
 絵画の構成とモチーフの描写が明確である点が藤田作品の特徴だ。そこには通常、抽象画の制作過程で生み出される残像や残骸のようなものはなく、それが独自の様式と新しさになっている。彼のモチーフとしては、花のほかに女性や果物、鳥などがあり、ときとして西洋の古典的なイメージを用いる。いわゆる写実ではあるが、モチーフをコラージュ的に配置しているため、記号的な意味合いが強まる。
 私が彼の絵でまず注目するのが、水平と垂直だ。これほど2つの要素が明らかな絵画は近年類を見ない。それでいて、安易な奥行き表現には進まず、空間表現をある地点で止めている。私の目には、垂直と水平によるコンポジションの実験のごとく映る。
 タイトルのとおり、両者の作品によって立ち現れたのは庭のような景色だった。岐部作品の極限的な形態や存在感と藤田作品の彩りと構成は対照的だが、いずれも日本的な空間意識に裏打ちされたもののように感じる。そこにはある種の緊張感が浮かび上がっていた。その緊張が何であるかは容易につかむことはできない。両者が作品に向かう姿勢か、あるいは作品自体の構造なのかもしれない。立体と平面による展示は、異なる要素をもちながらも根底でつながり、調和していた。

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