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愛しのチロ [写真]

 荒木経惟氏の写真集「愛しのチロ」(平凡社)を見る。1990年に刊行された本の復刻版。猫を飼ったことのある人ならば、この写真集に収められているものがなんであるか、すぐにわかるだろう。カバーには、まっすぐな目をしたチロのカットが使われている。人と猫の関係。猫が人を見るまなざし。そこには、一点の曇りも矛盾もない。
 かわいいだけの猫写真は市井にいくらでもある。しかしこの希代の写真家はやはり視点が違う。丸めがねの奥にある真摯な眼で一匹の若い猫を見ていた。エロはダテではない。何気ないカットでありながら、見ることの大切さをあらためて考えさせられる。さまざまな表情をはじめ、寝姿から交尾、獲物食いまで、ここには猫のすべてが演出なしで写し出されている。日常の愛情。そして、少しセンチメンタル。
 われわれは日ごろ、二つの目で何を見ているのか。本書のような写真集を見ていると、己の視点のあいまいさ、いい加減さに自信がなくなってくる。いま、自らの欲望の歯車にあえいでいる我々に必要なのは、ここに写っているような、人と猫の間に交わされる純粋なまなざしではないだろうか。
 見ること、写すこと、想うこと(愛)。アラーキーの写真はそれがすべてイコールでつながる。本書には同氏直筆の文章が随所に挿入されており、生の言葉が味わい深い。愛猫チロと過ごした時間が刻まれた記録。在りし日の陽子さんの姿も写っている。私もその時間とふれあいの感覚を共有させてもらった。自分が昔飼っていた黒猫との懐かしい記憶とともに。
 本書は、以前紹介した「チロ愛死」の次に見たい写真集だ。全編モノクロなのもいい。巻末に、デビッド・ボウイのような顔をしたチロのポストカードが付属する。


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