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彼岸 [生活]

 昨年亡くなった伯父の墓参りに板橋に行った。その際、伯母から1枚のポジフィルムを受け取る。いまから45年前にいわき市で撮影された集合写真。大きな木造家屋の玄関前、親類一同と近所の人たちが20人ほど並ぶ。この写真を撮ったのは、私の亡き父だ。セルフタイマーで撮ったため、父本人も列の端に写っている。伯母によると、この撮影の2、3時間後に父は亡くなったという。
 集合写真を撮ったこの日は、戦時中に病死した祖母の法要だった。それで皆が集まり、墓参りを済ませ、食事をとり、酒を飲んでいる最中に、父は川で事故死した。享年32歳。奇しくもこの日は私の2歳の誕生日だった。私と母は東京で父の帰りを待っていた。本来であれば父は、法要を終えたのち、3時の列車に乗って東京に戻る予定だったとのこと。亡くなったという知らせを聞いた母の悲しみを思うと胸が深く痛む。私はいまだにその日のことを母に聞けないでいる。父の弟は知らせを聞いて急遽帰郷したが、兄の死という事実を前にして玄関に立ち尽くし、しばらく家に入れなかったと伯母は話した。
 この集合写真を撮った一眼レフカメラ「ペトリV6」はいま、形見として私の手元にある。カメラに興味を持ち始めた子供のころ、ペトリのシャッターを切って、その感触を楽しんだ。「カシャッ」と手応えがあるいい音がして、私はいまだこれ以上感触のいいカメラに出会ったことはない。伯母によれば、亡き父もそのシャッター音が気に入っていたという。血はつながっている。
 父の死は、私と母の人生を変えた。いろいろな場面で、生きていればどうだったろうかと考えることがある。自分の性格も変わっていただろうか。いや、それはまた別の話か。伯母は最近、会うたびに若き日の父の思い出を語ってくれる。私はそれを記憶にとどめ、頭の中で反すうする。それがいまの自分に跳ね返り、見えてくるものがあるのだ。

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