SSブログ

肖像画 [制作]

 伯父の肖像画を描く。身近な人物を描くのはずいぶん久しぶりだ。1年ほど裸婦を描き続けたが、どうもうまくいかない。なにかよそ事のような感覚でしかなかった。それで、モチーフを変えることにした。八十過ぎの伯父は、勝手がつかめず、少々緊張した面持ちでポーズをとってくれた。世間話をしながら、硬さを和らげる。この人の気質にどのくらいせまれるものだろうか、その空間と色をつかむことができるか。肖像画もまた、行く先のしれない船旅のような仕事だ。方向を探るための下描きの段階で、わずかな手応えがあった。それがなければ、人様の居間で路頭にまようことになる。
 筆をのせ、色を置いていく。最初に置かれる色というのは自分の頭の中にある記憶色のようなものだ。本当の色はまだ見えてこない。その場から得られる視覚に自分の感覚が反応して出たものが、求めている色なのだ。対象がもっている本来の色。
 感情はもとより、「考え」を入れずに描く。はたから見れば、至極冷静に筆を進めているように見えるだろう。しかし、頭の中にあるひとつの分野は次第に沸点に近づきはじめている。それをそのままキャンバスにぶつけることもできる。ただしそれでは絵画にならない。アクセルを全開で踏み込んだだけでは完走できないレースのように。制御することが必要なのだ。
 あまり長いポーズは伯父に負担がかかるので、2時間ほどで切り上げた。人物画も時間を必要とする仕事だ。そのうえ、うまくいくかどうかは分からない。それに付き合ってくれる人がいるだけでも幸運なことだと思う。
タグ:肖像画
nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 0

コメント 0

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。