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砂漠化 [街]

 川や湖が枯渇して砂漠化が進んでいるのは、チベットやアフリカばかりではない。多くの人々が暮らす東京という都市の砂漠化も年々進行の度合いを速めている。いまはまだ皆、都市が乾き始めていることに気づいていない。
 三鷹駅前の状況は以前も書いたとおりだが、最近はさらに深刻だ。昨年は、南口駅前のパチンコ店「NEW YORK」とその上階にあった麻沼音楽スタジオが閉店した。私はパチンコはやらないが、NEW YORKは楽しげな演出のうまい、粋なパチンコ店に思えた。店頭では常に、アニメキャラクターのディスプレー(人間大のモビルスーツなど)や着ぐるみ、オブジェ、心和む話やねぎらいの言葉を手書きした掲示板などを展示して道行く人の目を引きつけ、ビル壁面を利用した巨大な看板には、アニメやパチンコの宣伝広告を掲示した。感心するのはそれらの出来栄えだ。ディスプレーやオブジェはFRPなどを使ってすいぶんと凝って作られていた。壁面の広告は、アニメ(エヴァンゲリオンなど)やウルトラマン、漫画が中心でグラフィック的に優れ、なかなか見応えがあり、ジブリ美術館を訪れる外国人客もその迫力に見入っていたことを覚えている。クリスマスシーズンになると、屋上に巨大な猫のサンタクロースを出現させて子供を喜ばせる、遊び心のある経営者だったのだろう。あんなパチンコ店はそうない。
 浅沼音楽スタジオは、ピアノの練習室とホールがあり、スタインウェイのフルコンサートピアノがあったとのこと。人づてで聞いた話では、NEW YORKと浅沼音楽スタジオのオーナーは同じ人で、そのオーナーが亡くなった後、姉と弟(だったか兄と妹だったか)が遺産相続でもめた末の閉店だという。砂漠化には、遺産相続も一枚かんでいるらしい。
 三鷹の隣町吉祥寺でも、伊勢丹の閉店など変化が起きている。私は自分の子供が小さいころはときどき伊勢丹を利用した。同じように、公私とも付き合いがあった近鉄百貨店はとうの昔に消えている。吉祥寺にユザワヤが進出した際、その近所にあった画材屋が2軒消えた。1軒は東急イン横にあった小さな店(すでに店名を忘れてしまった)。もう1軒はパルコ地下のTooだ。そのユザワヤもビルの改築に伴い、先月移転した。
 吉祥寺駅付近の新星堂は昨年秋に撤退したらしい。吉祥寺の各新星堂には優秀な店員がいた。クラシックに詳しい穏やかな佇まいの店員は、こちらが伝える少ない情報(鼻歌など)で目当てのCDを見事に探し出した。アニメのLDやDVD作品に詳しい店員は、隠れ名作アニメを勧めてくれた。ロックインではシンセサイザーや機材の最新知識が豊富な人がいて、システム構築の際に役立った。彼らが一人ずついなくなり、ついには店自体も消えてしまった。砂漠化の第一段階は文化の蒸発、第二段階は人材の喪失か。「消費者のニーズに合わなくなったのが原因」というかもしれないが、消費者などという定義ほど怪しいものはない。それは企業と役所が作り出した虚像であり、格差を生む根源だ。とはいえ、CDや書物はWebで購入することが増えた。インターネットは街の砂漠化に一役買っている。ついでにいうと、吉祥寺駅ビル内の老舗、弘栄堂書店も一昨年に店を閉めた(同書店は、NHKのテキストが日本で一番売れる店だった)。結局その跡に別の書店が入ったがどうなるか。吉祥寺の枯渇化も要注意だ。
 今では想像できないだろうが、25年ほど前の吉祥寺駅前にはまだ、豆や地鶏の卵を売る店などが連なっていた。それらの店が再開発で消え、駅ビルができた。これだけ店や街が変わるのなら、豆と卵を売る店のままでよかったのではないだろうか。それは冗談として、最近感じるのは、街のウリは結局なんでもいいということだ。人がたくさん来ればいいというのが本音か。吉祥寺をただの観光地にするのであれば話は別だが、街としての体をなしたいのであれば、魅力的な店、あるいは店員を増やすべきだろう。それこそ砂漠の泉である。
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