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出版不況 [本]

 もう十年以上経つだろうか、本が売れなくなり、「出版不況」と呼ばれて久しい。その要因が人々の本離れにあるのか、作り手側にあるのか、あるいはインターネットや携帯のせいなのかの話はさておき、不況という状況下で中規模の出版社にどのような変化が起きたのかを、私が見てきた範囲で書いてみたい。
 雑誌(月刊誌)では、販売部数減と平行して広告収入が落ち込み始め、潤沢に出稿があった時代は2000年ごろまでに終わった。急激な部数減と広告減(雑誌は広告収入が重要な資金源だ)。そうなると、どんぶり勘定と緩い収支把握では立ちゆかなくなり、早晩アルバイトから人員削減を始めることになる。月刊誌の仕事はその半分近くが雑務の積み重ねなので、アルバイトがいないと手間と時間がかかる記事は作りにくくなる。その半面、業績を維持するためにより幅広い読者に受ける記事が求められ、必然的に、過去に受けがよかった特集を二度三度と繰り返す。ただし、マンネリ化した記事の読者支持率は下がる(それよりも、一人の編集者が独自の視点で好き勝手に考えた企画のほうが面白い場合が多い)。業績優先になると「独自の視点」が許容できない雰囲気となり、企画の出来が鈍る。広告連動企画や商品宣伝的な記事を載せざるを得なくなり(製品の批判などもってのほか)、個性が強い「記者的」な編集者が離れていく(もっとも、面白い人間はひとつところにじっとしていない傾向もあるが)。かくして残ったのは、ごく常識的な意識の編集者と、縮小した制作部門には不釣り合いな管理部門となる。
 では、雑誌の広告営業はなにをしたかといえば、景気がいいときの気分から抜けられず、効果的な営業活動をしないまま、毎月をやり過ごした。フタを開けてみれば、頭の働く書店営業もいなかった。
 次の段階で月刊誌は、起死回生を狙ったリニューアル、思い切った方向転換を敢行する。このとき、既存の読者をどうとらえるかが生死の分かれめになることが多い。新規読者の獲得を優先すると、既存の読者が離れていく。新規読者の獲得に失敗すれば、本の刷部数はさらに落ち込み致命傷となる。現在売り上げが好調なのは、このリニューアルに成功し、既存と新規の両読者を味方につけた雑誌だ。その多くは編集長の手腕によるところが大きい。奇をてらわず、原点回帰で着実に部数を伸ばす本もある。
 出版社も会社である以上は、存続しなければならない。この点で大きく矛盾したのが、アルバイトの次に、若手編集者を解雇したことだ(そのほとんどが契約社員)。即戦力にならないという理由で若手を切り、編集部には中堅以上が残ることとなった。若手が育たなければ、将来的な存続はあり得ず、新しいネタをすくい上げる企画も出にくい。景気がよくなったらまた新人を採用すればいい、と考えたのかもしれない。ここも重要な点だが、出版社は景気のいいときでさえ、毎月の締め切りに追われ、社員育成を怠っていた(「徹夜」だけは強制していたが)。この姿勢が現在、ボディーブローのように響いている。
 雑誌や書籍の毎月の返本率はおよそ40%。それらの多くは断裁されて、紙くずと化す。近年、新しい視点に立った企画を見いだせないまま7割がたの雑誌が廃刊した。その一方で、旺盛な読者がいるマンガやライトノベルズ、アニメなどの分野は好調で、編集者と読者、営業の関係もうまくいっている。雑誌を刊行していた多くの出版社は現在、その穴埋めとして書籍に注力している。雑誌の発行を仕切り直す時期はまだ見えていない。
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